過払い金返還請求権の消滅時効の起算点

【問題の所在】

過払い金返還請求権は債権であり、10年の経過によって消滅時効にかかります。

貸付と返済を繰り返す継続的な取引について過払い金が発生した場合に、この「10年」をどこから起算するのかという点につき、2つの説があり対立していました。

ひとつは、過払いが発生したときから時効が進行するとする説です。返済が繰り返された場合は、各返済ごとに時効が進行するという考え方です(個別進行説)。もうひとつは、継続的な取引が終了したときから時効が進行するとする説(取引終了時説)です

このふたつの説の違いを具体的な例で説明します。

たとえば、平成3年に開始した継続的な取引において、平成10年1月1日の返済によって初めて過払いが発生したとします。そして、その後も毎月1日に返済をして、平成11年1月1日に返済を完了して取引を終了し、この取引における過払い金の返還請求を平成21年1月1日に請求した場合です。

個別進行説によると、平成10年1月1日から平成10年12月1日までに返済をした際に発生した過払い金返還請求権については全て10年の経過により時効消滅しており、平成21年1月1日の返済時の請求権についてのみ時効消滅していないということになります(初日不算入計算)。

これにたいして、取引終了時説によると、取引終了時である平成11年1月1日から時効が進行し、平成21年1月1日の24時に時効が完成するということになりますので、平成21年1月1日の時点ではまだ消滅時効は完成していないということになります。

この点について、最高裁平成21年1月22日の判例では取引終了時説が認められました

消滅時効の起算点に関する最高裁判例

平成21年1月22日、消滅時効の起算点に関する最高裁判所の初判断がありました。

まず、基本契約に基づいて貸付と返済を繰り返す取引に関しては、過払金が発生した場合には、弁済当時借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意があるという従来からの考え方を示した後、以下のように判示しました。

このような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という)を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。


つまり、「過払金充当合意」のある取引については、貸主も借主も、過払いが発生したらそれを後からの貸し付けに充当するという合意があるのだから、充当せずに不当利得返還請求権を行使するということを想定しておらず、この合意が不当利得返還請求権行使の法律上の障害になる、ということです。消滅時効は権利の行使ができるときから進行しますので、法律上の障害があって権利を行使できなかった場合には進行しないということになります。

更に、この結論に対して次のように理由づけています。

借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない


これは、もし借主が取引の途中で過払い金返還請求をするとしたら、継続的な取引を自分から終了させる必要があり、これは基本契約の趣旨に反することになる、という理由付けです。

現在の最高裁は、「法律上の障害」の認定を緩和してきており、権利を行使することが現実には難しいような事情がある場合には、その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降において消滅時効が進行すると解しているようです。最高裁平成15年12月11日判決では、「生命保険契約に係る保険契約が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨を定めている場合であっても、被保険者の遺体が発見されるまでの間は、権利を行使することが現実には期待し難いから消滅時効は進行しない」と判示されています。

今回の判断も従来の基準であれば、法律上の障害があるといえるかどうか微妙であったと思います。しかし、その他の状況等を総合的に判断すれば、消滅時効の進行を認めるべきではないという判断と、法律上の障害の要件を緩和してきている最近の流れから、今回のような判決になったものと思われます。

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