利息制限法による引き直し計算の際の遅延損害金について

【問題の所在】

過払い金返還請求の手続きのために利息制限法に基づく引き直し計算をする場合、たとえば50万円の債務元金であれぱ、利息制限法1条に基づき、18パーセントの利率を上限として計算します。

しかし、取引中に一日でも支払い期限に遅れて支払っていると、貸金業者から、期限の利益を喪失しているということで、残元本全額に対して18パーセントを超える、高い遅延損害金利率を適用すべきであるとの主張がされることがあるのです。

この点については、貸金業者の使用している契約書には「約定の返済を怠った時には催告なしに当然に期限の利益を失い、残元本に対する遅延損害金を即時に支払う」という条項があることが普通ですので、契約書のとおりに請求しているわけですから争うことができないようにも思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。遅延損害金利率を請求することが信義則に反するようなケースについて、上記利率の適用を認めない判例が数多くあります

遅延損害金の主張が信義則違反とされた判例

かつて、貸金業者による期限の利益喪失の主張は信義則違反と判断されることが多く、借り主に有利な判例が数多く存在していました。

福岡高裁宮崎支部平成20年10月24日判決(被控訴人=借主、控訴人=シティズ)

控訴人は,同月21日以降も,被控訴人に対し,期限の利益を喪失したことを理由に元利金の一括返済を請求したことはなく,4年以上もの間被控訴人からの分割弁済金を受領し続けていたのであるから,控訴人としては,被控訴人が元金及び利息制限法所定の制限利率による利息の支払をしなかった場合であっても,期限の利益喪失約定を適用することなく,期限の利益を付与して被控訴人の分割弁済に応じていたものであり,また,被控訴人もその前提で分割払いを継続していたとみるのが相当である。
仮に控訴人が被控訴人に対して期限の利益を付与していなかったとしても,控訴人は,期限の利益喪失約定による一括請求をしないで,被控訴人から利息制限法所定の制限利率を上回る利息の支払を4年以上にもわたり受領し続けていながら,被控訴人から過払金返還請求を受けるや,一転して,過払金充当計算において,期限の利益喪失約定を根拠として利息制限法所定の遅延損害金利率による計算方法を主張することは信義則に反するものとして許されないというべきである。


この事案は、借主が支払いを遅延したことにより、シティズがその後の取引においては遅延損害金利率による計算を主張した事例です。裁判所は、遅延損害金利率による計算を認めませんでした。

その理由として、シティズは支払い遅延の後も期限の利益を喪失したとして一括請求をすることはなく、4年以上分割の支払いを受領し続けていたことが挙げられています。支払いが遅れた後も一括請求をせずに従来どおりの分割での支払いに応じていたということは、期限の利益の喪失条項を適用せず、もう一度期限の利益を付与したとみることができる、とされています。

また、支払遅延の後も長期に渡って期限の利益喪失条項を適用せずに分割の支払いを受けて利益を得ていながら、借主から過払い請求を受けると一転して期限の利益喪失条項の適用と遅延損害金利率による計算を主張するのは、信義則に反する、ということも指摘されています。

しかし、この点については、平成21年に最高裁判例が、支払いが遅れた後も一括請求をせずに従来どおりの分割での支払いに応じていたというだけでは、期限の利益喪失の主張が信義則違反であるとは言えないと判断しました。

これらの最高裁判例により、個別の事情によって貸金業者の期限の利益喪失の主張が認められるケースとそうでないケースに分かれるということになりました。

二つの最高裁平成21年9月11日第二小法廷判決

平成21年に、上記争点につき、二つの異なる最高裁の判例が示されました。両方とも、平成21年9月11日、同日の最高裁第二小法廷判決です。ひとつの判決では、支払いが遅れた後も一括請求をしていない貸主による期限の利益喪失の主張を信義則違反であるとは言えないとしました。つまり、支払い遅延後も一括請求をされていなくても、貸主は遅延損害金利率での計算をしてもよいという、貸主有利な内容の判決でした。もうひとつは、貸主による期限の利益喪失の主張を信義則違反であるという内容(借主に有利な内容)になっており、結論は正反対です。

貸主による期限の利益喪失の主張を信義則違反であるという内容(借主に有利な内容)の判決の理由としては、次のような契約の特徴が挙げられています。

1、貸付けに係る契約には、遅延損害金の利率を年36.5%としつつ、期限の利益喪失後も当初の約定の支払期日までに支払われた遅延損害金については、その利率を利息の利率と同じ年29.8%とする旨の特約が付されていた。

2、貸金業者の担当者は、借主が期限の利益を喪失した約定の支払期日の前に、約定に従えば支払うべき元利金の合計額を下回る金員を支払えば足りる旨述べていた上、貸金業者は、同支払期日の翌日に借主が支払った弁済金につき、これを利息と元本に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付した。

3、その後も、貸金業者の担当者は、借主が同担当者に対して支払が約定の支払期日の翌日になる旨告げた際、1日分の金利を余計に支払うことを求め、支払期日の翌日に支払う場合の支払金額として年29.8%の割合で計算した金利と毎月返済すべきこととされていた元本との合計額を告げた。

このような事実を元に、借主は期限の利益を喪失していないと誤信し、貸金業者も、その誤信を知りながらこれを解くことなく、長期間、借主が経過利息と誤信して支払った金員等を受領し続けた。


このような二つの判決が出たことで、今後はこの判例を基準として、信義則違反となるかどうかの判断がされることとなりました。いままでのように、債権者が分割払いを受け付けて、一括請求していないことや、追加貸付を行っていることのみをもって、期限の利益を再度付与したとか、遅延損害金の主張が信義則違反であるなどという主張は、まず認められません。

しかし、領収書に遅延損害金ではなく約定利息として受け取った旨の記載があるなどの事情があれば、期限の利益の喪失の主張は認められにくいはずです。上記借り主勝訴の最高裁判決の事例では、大半の領収書には、弁済金を残元本全額に対する遅延損害金と残元本の一部に充当したように記載してありましたが、それでも一部の領収書に遅延損害金への充当についての記載がなかったことなどの各種の事実から、貸主による期限の利益喪失の主張を信義則違反であると判断しています。

したがって、このような事実を立証するため、取引の際の資料は捨てずに保管しておくことが大切です。また、支払いが遅れた際に貸金業者の担当者と交わした会話についても有利な事情となることもありますので、メモしておき、陳述書などの形で裁判上の証拠とできるようにしておきましょう。

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